日本ではあまり有名ではありませんが、アメリカ西海岸にもロケット射場があり、北カリフォルニアに位置するシリコンバレーから車で4時間で行けます。

私は子供たちを連れて2023年11月11日(土)に実施されたSpaceX社のロケット「Falcon9」の打上げを現地で見てきました。本記事ではその体験と学びを共有したいと思います。
事前調査と実際の違い・学び
事前調査を入念に行って現地に向かいましたが、当日「思ってたのと違った!」という点がいくつかありました。先にその学びをまとめておきます。
- ポイント1(Ocean Ave & Renwick Ave)で観るつもりだったが、その手前で規制線が張られており行けなかった
- 射点への距離を優先したポイント(射点から約7km)だと射点が見えないのは分かっていたが、遠く離れて上の方に登っても、結局射点にいるロケットは見えない
- Falcon9のブーストバックの迫力は想像していたよりすごい(語彙力)
- ソルバングは激混み(関係ない)
旅の概要・旅程
途中、寄り道もしているのでトータルの走行時間は9時間ほど。7歳と5歳の子供を連れてますので、トイレ休憩も挟みつつの旅程です。時間履歴も含め以下にもう少し詳しく載せます。
- 打上げ予定時刻は10:49am、ロンチウインドウ(予備時間)は11:44amまで
- 打上げ日は2023年11月11日(土)で休日の打上げ
- 天気は予報も良く実況も快晴(絶好の打上げ・打上げ観覧日和)

ノンストップでここまで来て約2.5時間。予定通り。ただ、このトイレ休憩で娘がファイトタイムに突入し、再出発できたのは30分後の9:20am。
打上げ予定時刻の約1時間前に到着。移動はスムーズにいき、車も無事路駐でき、先に現地入りして場所取りをしていた友人と合流。ロケットは予定通り10:49amにリフトオフし、1段ブースタの着陸まで含めた約10分間のショーを観覧。その後家族・友人たちと余韻に浸って現地解散。
実際の観覧ポイントではまったく射点が見えず(事前調査通り)、どうせなら着陸した1段を一目見たいと思い、高台にある観覧ポイントを視察。結局、見えず。公園があったので子供たちの体力を消耗させる。
VandenbergのあるLompocからSolvangへ。土曜日ということもあり人・車がごった返し、駐車場の空きがなかなか見つからない。移動に30分、駐車場探しに30分といった感じ。

3時間ほどぶっ通しで走り、トイレ休憩。
13.5時間(5:30-19:00)、総走行距離560マイル(約900km)のロードトリップを無事に完了。
打上げ観覧ポイント

私たちが観覧したのは上図で示したところ(W Ocean AveとUnion Sugar Aveの交差点付近)で、射点から7.3km。ここが一般人が行ける最も近い場所だと思います。というのも、このすぐそばで規制線が張られていて、これ以上は射点に近づけなかったためです。


妻は軍服来た本物の軍人にやや興奮してましたが、彼らが止めているのでとにかくこれ以上は入れません。

路駐したところからは歩いていきました。
ロンポック市街からの行き方
ロンポック市街からW Ocean Aveを基地の方へ進んでいくと、規制線に近づくにつれて路肩に路駐した車の列がお目見えします。

私たちのときで、打上げ1時間前の時点で規制線の手前0.3マイル(約500m、1分くらい)のところまで路駐の列が伸びていました。逆に言うと、1時間前着でもそのくらい近くに車を駐められるということです。
私たちはこのあと、先に現地入りした友人のガイドでもう少し先の方(規制線から右に曲がって踏切を越えたあたり)に駐車。歩いて友人たちの確保した観覧場所に合流しました。

(横にはイチゴ畑)

1時間前の時点では車での侵入が禁止されていた。


丘越しに打上がっていくロケットを見る形になります。
次行くとしたら(注意点)
本当は1時間半前に到着するつもりだったのですが、出発が遅れたり娘のファイトタイムがあったりで、1時間前到着になりました。休日にもかかわらず思ったよりも見学者は少ないなという印象でしたが、それでも先に入っていた友人がいなかったら、もう少し混乱していい場所で駐車・見学できなかったかもしれません。
次は勝手がわかっているとは言え、確実に1時間半前に着くように行きたいと思います。
ちなみに、当日連絡を取り合っていなかった知人は、当日打上げ時間に間に合わず、途中の道で打上げを観ることになった模様。その話を聞いてとても申し訳なくなったため、それがこの記事を書く原動力にもなっています。打上げ時に周りに同じ目的を持った人がいると情報が入りやすかったりするので、遅くとも1時間前には現地入りして駐車スペースを確保し、まだかなと待ちながら雰囲気も含めて楽しむのがオススメです。
打上げがどんな感じで観れるか
動画が一番わかりやすいので共有します。遠くの方に見える各イベントをなるべく逃したくなかったので、4Kです。
快晴の下、Falcon 9の打上げと1段ブースタの帰還・着陸を、完璧に観ることができました。家族も友人たちも大興奮!企画してよかったです。
Falcon9の打上げシーケンスを簡単に解説
せっかくなので、Falcon9の打上げについてこの動画を基に簡単に打上げシーケンスを解説してみます。「簡単に」と書きましたが、結局長くなってしまいました^-^;
分かりやすいYoutube動画
SpaceX公式の実況放送を使いながらYoutuberが解説する「Everyday Astronaut」が個人的に一番わかりやすいと思うので、その動画を貼ります。
以降、実際に見えた光景とYoutube動画とを同時刻で比較しながら、補足説明していきます。
10:49amちょうどにリフトオフ


ロケットには”Launch window”と呼ばれる打上げ可能時間帯があり、1日の間に1時間ほどある打上げもあれば1秒しかないものもあるなど、ミッションによって異なります。実際の打上げはその間であればどこで打っても良いのですが、通常はその最速のタイミングで打上げ時刻をセットして、予備時間を最大限確保します。すなわち、不具合や天候不良等があった場合に、ロンチウインドウ内で打上げ時刻をずらす、といった感じのオペレーションをするためです。
今回のTransporter9の打上げでは「10:49am-11:44am」とロンチウインドウが約1時間ありましたが、初期設定の10:49ぴったりに打ち上がりました。と言っても実際に見てるときは射点が見えていないので「たぶん」なのですが、10:49過ぎたあたりに先ほどの写真のようにロケットが見えてきたので、たぶんピッタリ打上げです。
音もだいぶ遅れて聞こえてきてますね。射点から直線距離で約7.4kmなので、音は22秒くらい遅れて聞こえてくる計算になります。
以降、Youtube実況動画と、私が撮った実録映像とを比較していきますが、時刻の同期は最後の方に示す『Landing Burn』のタイミングでとっています。かなりはっきりくっきり観れたので。そこから逆算していくと、リフトオフしたタイミング(T-0)は、実録映像の時間で言うと【00:06】となります。以降の各スクショはこれを考慮しています。
注意事項:ネットの実況放送は見れないと思って臨んだ方が良い
なお、当日の観覧場所から射点が直接見えなかったため、打上げ準備が今どんな様子かを確認しようと、SpaceX公式の打上げ実況放送をスマホで観ようとしたのですが、なかなか繋がらず。Telloが貧弱なせいか?とも思いましたが、友人のちゃんとした(?)AT&Tの回線でも同じことになっていたので、どうやらこの辺りは安定してネット中継は見れないと思った方が良さそうです。
ちなみに実録動画でも流れている通り、打上げ直前に実況閲覧が復活し、カウントダウンを聞いていたのですが、実際とのずれがあったがために全然タイミングが合ってませんでした。おかげでリフトオフの瞬間を軽く見逃したくらいです。
みなさんには、当日の実況放送を何とかして見たとしても。カウントダウンは信用せず、打ち上げ時刻を秒単位でモニターすることをお勧めします。
T+1分06秒頃 MAX-Q


MAX-Qとは、ロケットがその一生の間で一番過酷な荷重を受けるタイミングのこと※。ロケットはリフトオフ後に速度ゼロの状態からガンガン加速し続けて、最終的に秒速約8kmまで到達しますが、一方で空気はどんどん薄くなっていきます。速度は上がるけど空気は薄くなる、ということで「動圧」と言われる空気から受ける力があるところでピークを迎えるのです。それがMAX-Q。このタイミングが一番ロケットに厳しいポイントなので、ここを耐えて通過できればロケットがポキッと折れたりはしないということで少し安心できる、といったイベントです。ちょっとマニアックですね。
※厳密には部位によって評定荷重は違いますが、ここでは詳細省略。あと、迎角の件も省略。
T+2分22秒頃 MECO


MECO: Main Engine Cut Off、すなわち第一段ブースタの燃焼終了です。これは肉眼で見えたようです(私は目が悪く見えなかった)
T+2分26秒頃 1/2段分離(ブースタ分離・帰還開始)


1段のエンジンを止めて数秒後に1段ブースタを切り離し、そのブースタはすぐに射点への帰還を開始します。その様子はこんな感じ。

分離後のブースタはすぐに姿勢を変えるためにスラスタを噴きます。

これも地上から肉眼で見えていたようです(私は目が悪いせいか、見えず)
この後、2段の飛行はさすがに遠くて見えなかったので、以降は1段のブーストバックのみ追います。
T+2分40秒頃~3分30秒頃 BOOSTBACK BURN


姿勢を変えたブースタは姿勢のみならず速度ベクトルを大きく変えなければなりませんので、ここでメインエンジンを噴きます。ブースタ君も2段たちといっしょに宇宙に向かってガンガン加速して飛んでましたが、ブースタ君はペイロードを加速させる仕事を終えたので、踵を返して帰るわけです。メインエンジンの燃焼の様子は実況動画でもちらっと見えていますね。

肉眼では、点火が見えたかどうかはわかりませんが、踵を返して帰ってきている様子は捉えられていました。(みんな盛り上がってる。私は見えていない)
なお、ブーストバックでは合計3回のバーン(エンジン燃焼)があり、これは最初の一回です。1/2段分離時点ですでにロケットは時速6300kmものスピードに到達しているので、同様のスピードに達している、しかも射点から離れる方向に速度を持っているブースタの速度ベクトルを変えるためのバーンは、さすがに長いですね。
ちなみにこの時点で、高度は83kmです。

2段ロケットに搭載されたカメラから見た、射点へ帰還するブースタの様子。ちょっと信じられない光景ですよね(笑) CGじゃなくて現実です。
奥に射点があった陸地も見えてますね。確かにそっちの方向に戻っていってます。
T+4分00秒頃 グリッドフィン展開


ブースタが帰ってくる際、空気が十分にある場所では姿勢制御に空力が使えますので、そのための「グリッドフィン」がこのタイミングで展開されます。地上からはさすがに何も見えません(笑)
T+6分24秒~6分40秒頃 ENTRY BURN


空気の密な層に高速でぶち当たると機体に負荷が大きすぎるので、その前に減速するためエンジンを再度燃焼させます。これがエントリーバーン、2回目のバーンです。だいたい15秒間。高度50km、時速4650kmくらいのタイミングで燃やしてますね。それまで自由落下でガンガン上がってたスピードが、エントリーバーンによってブレーキがかかっていきます。
この約15秒間のエントリーバーンの様子も、肉眼ではっきり見えました(私にも!!)

このバーン終了後、飛行機雲(ロケット雲?)を作りながらまた重力により自由落下してきます。

「ロケットロード」と呼ばれる、打上げ時にロケットが作る雲の軌跡については日本でも観られますが、ブーストバック(帰り)時にも雲を作って、そしてそれが同じ画角に同居するってのは、中々にクレイジーな感じがします。
なお、エントリーバーン終了後、また自由落下フェーズに入り、また加速していくと思いきや、速度は上がることなくむしろ下がっていきます。高度にして30km、時速4200kmくらいのタイミングですね。空力減速と思われます。それでも余裕で音速(時速約1200km)越えてるのでめちゃくちゃ速いですけどね。
肉眼で見ていると『落ちている』ようにしか見えず、いや、まぎれもなく落ちてるんですが、「あれで(着陸までに)減速間に合うん?」とかいう感想が漏れています。
T+7分17秒頃 音速をまたぐ


自由落下しながら空力減速を続けるブースタは、高度4km付近で音速(時速約1200km)をまたぎます。このタイミングでは見た目には特に何も変化がありませんが、着陸後に届く「バンバンッ」という花火のような音は、この時に生じた衝撃波により発生する爆音『ソニックブーム』ですので、注目イベントとして記録しておきます。
T+7分29秒頃 LANDING BURN


地上高1.1kmあたり、時速1000kmを下回ったあたりで最後のバーン『ランディングバーン』を行います。約20秒間ですね。
地上付近で近いということもあり、肉眼ではっきり確認することができました。まだ音は届いていません。
T+7分48秒頃 ブースタ着地・ソニックブーム到達


ブースタは射点の近くのランディングポイントに着地していますが、観覧場所からは丘が邪魔で見えません。着陸したんだろうなぁと思っている頃に、ソニックブームが私たちの耳元に到達します。動画の7:52頃です。バンバンッと二回鳴るソニックブームの爆音を聴けるというのは、ロケットの打上げと同じくらいになかなか貴重な体験です。
これでFalcon9打上げで観覧できる全イベントが終了。普通のロケット打上げだとどんなに天気が良くてもせいぜい3分くらいで何も見えなくなって終わりですが、ブーストバックがあるので約8分間も楽しめました。
おそらく、もう一度動画を見たくなっていると思いますので、両動画をここに再掲しておきますね。
全体的な感想
今回、観覧場所を決めるにあたって「最も近くで観れる場所」を選んだこともあり、打上げの迫力は十分に感じることができました。ただ、それでも種子島での打上げに比べると、身体全体に響くような迫力までは感じられなかったように思います。
種子島のロケット打上げとの比較
種子島で観たH-IIA、H-IIBの打上げよりも迫力を感じなかった理由について、考察してみます。
①射点までの距離が遠い
- ヴァンデンバーグは最も近い観覧場所でも7.3km
- 種子島の場合は3.1kmから観れる(恵美之江展望公園)

②固体ロケットが付いていない
ファルコン9ロケットは、全段液体燃料のロケット。対して種子島から打上げられる日本の主力ロケット(H-IIA、H-IIB)はコア機体が液体燃料で、補助ブースタとして強力な固体ロケットが付いています。これも迫力を生む要因なのかもしれません。
また、観た感じ他にも違いがありました。
③リフトオフ後しばらくはまっすぐ上に上がっていく

上の写真は私たちの目に飛翔するFalcon9の姿が飛び込んできた瞬間。だいたいリフトオフ20秒後くらいの姿になりますが、まっすぐ上に上がってるように見えました。当たり前のように思われるかもしれませんが、少なくとも日本の打上げではそうじゃないんです。いくつか見てみましょう。
さっきも貼ったものと同じですが、これは種子島から打ち上げているH-IIAロケット。

リフトオフ後10秒くらいのところをキャプチャしてみましたが、どうでしょう、斜めに機体を曲げているのがわかりますか?
もうひとつ行ってみます。
内之浦から打上げるイプシロンロケットは、リフトオフ後4-5秒経った頃にはもう機体を傾けているのがわかるかと思います。
ヴァンデンバーグで今回観たFalcon9の打上げは南南西くらいの方向に向かって打っているので、射点に対して東北東くらいの方向から観た我々からすると奥の方に飛んでいく感じになり、傾きはわかりにくいんですが、それでも上に上がってからは曲がっていく姿が見えたので、実際に地上付近では真上に上がってるんだと思われます。

なぜ違うのかについては書きませんが、アメリカの方が気持ちよく上に上がっていきますねぇ。空気抵抗がある時間を短くできるので、効率(燃費)は良いはずです。
もちろん、最終的にロケットは地表に対して平行に飛んで地球周回軌道に乗るので、Falcon9も上空で横に傾いていく姿が見えています。
逆に、ブースタが帰ってくるときはめちゃくちゃ斜めなのも興味深い!
他の観覧場所にも行ってみた
帰還したブースタをこの目で見てみたいという思いもあり、高台からなら見れるのかもしれないということでポイント5「699 Mercury Ave」に行ってみました。
699 Mercury Ave

さっきの観覧場所から車で逆方向に走ること約15分。途中坂道をどんどん登るので、これなら確かに見えるのかもしれないと期待は高まる。着くとそこには、明らかに打ち上げを見学していたっぽい人がキャンプチェアに座っていました。「ここから射点にあるロケットって見れましたか?」って聞いてみたら、「打上げ前はフェアリングの先端が見えてたよ。帰ってきたブースタは低いから見えないね」と。そうか、残念。
もう一か所、さらに10分ほど車を走らせた高台に「Harris Grade Viewing」という見晴台があるけど、もういいやということで私たちは行くのをやめました。もし行ったことがある人がいたら、どんな感じで見えるのか、教えてもらえると嬉しいです。
ついでに寄った観光地
せっかくベイエリアから4時間も南下してきたので、ついでにこの近くにあるソルバングという町に行くと決めていました。
ソルバング/Solvang

カリフォルニアのデンマーク村と言われる「ソルバング」。北欧の雰囲気が漂います。町をブラブラ歩き、雑貨屋さんに寄ったり、パン屋さんでスカンジナビア諸国発祥の「デニッシュ(Danish)」を買って食べて、1時間半ほどの滞在で満足できました。





ベイエリアでは感じたことがない「観光地感」を感じることができ、行って良かったです。帰国したらヨーロッパ旅行に行きたいねと夫婦で感傷に浸りながら、このあと4時間かけて家に帰りました。
ヴァンデンバーグ日帰り旅行まとめ
Falcon9の打上げが「休日」に「快晴」の中「オンスケ」で上がってくれたので、おかげで最高の打上げ観覧となりました。子供たちに打上げを見せられただけでなく、こっちでお世話になっている友人たちにも無事打上げを見てもらえて、ほっとひと安心。
しかしながら、ロケットの打上げには延期はつきものです。この辺りは天候がとても良いため、天候不良による打上げは少なそうですが、技術的な理由による延期はよくあります。現に今回の打上げも、1週間前から2回の延期を経て土曜日に設定されたという経緯があります。
ベイエリアから打上げを観に行く場合は、万が一打上げが延期になって観られなかった場合にも備えて、別の目的も用意していくのが良いかと思います。うちの場合はソルバングでしたし、友人家族は途中にあるシカモア(Cycamore)の温泉とパソ・ロブレス(Paso Robles)の温泉の近くに前後宿泊して、旅行を普通に楽しんでいました。
日帰りするもよし、温泉旅行にするもよし。本記事が、ベイエリアからヴァンデンバーグへのロケット見学旅行を検討されている方の少しでも参考になっていれば幸いです。
そして、日本に帰国された際には、ぜひ種子島・内之浦の打上げも観に来てくださいね!
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